大樹町からお届け畑の真ん中だより

【聞きにくいことを聞いてみた】大石農産の「防除」について

2018年7月25日

皆さんは「防除(ぼうじょ)」という言葉を聞いたことがありますか?
防除とは主に農業関係で使われる言葉で、病気や害虫から作物を防ぐ、または駆除することを指します。防除には化学的防除や生物的防除など、いくつかの種類がありますが、わかりやすくいうと「農薬散布」です。

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この時期、畑近くの道を通っているとこのような光景を見かけたことがあるのではないでしょうか?この農機は「スプレーヤー」と呼ばれ、主に農薬散布に使われます。
大石農産では片方にブーム(腕)のついた「片竿スプレーヤー」を使用していますが、両方にブームのついたスプレーヤーもあります。
ブームについたノズルからシューっと吹き出しているのが農薬で、この光景は「防除作業中」ということになります。(余談ですが、スプレーヤーはジブリ映画「天空の城ラピュタ」に出てくるロボット兵を彷彿とさせるフォルムだと思っています)

今回は作物を生産するために必要なものと理解しつつも、正面切っては聞きにくい「防除」「農薬」について、ずばっと斬り込んでみたいと思います!

そもそも何のために農薬を使うのでしょうか?

大石:
はっきり言うと、見た目のため。日本の消費者は特に見た目を重視するから、虫食いの大根なんて選ばないんだよね。売れないものを作っても仕方がないでしょ、やっぱり美人の大根じゃないと。
そのために農薬を使って防除する必要があるんだ。

ちなみに農薬には化学的に合成した化学農薬、菌やウイルスなどを使った生物農薬などがあるけれど、一般的に農薬というと化学農薬のことを指します。

なんとなく「農薬」は"毒""悪いもの"というイメージがあります。

大石:
最初に知って欲しいのだけど、使用できる農薬の種類や量、時期などは日本の法律で基準が決められているんだ。そのため、お店で売られている農作物に残留農薬の心配はないので安心してほしい。

それを踏まえて、例えば手足をケガしたら、ばい菌による炎症を防ぐために消毒するでしょう?
防除ってそれと同じイメージでとらえてもらうと分かりやすいんじゃないかな。
作物にむやみに農薬をかけているわけではなくて、病気にならないよう、害虫に食べられないように予防する、万が一病気や虫にやられても、それ以上の被害にならないようにする手段なんですよ。

では大石農産が「安全・安心」とわざわざ謳っているのはなぜですか?
法律で決められているならどの大根も安全・安心ではないですか?

大石:
法律で決められた量まで農薬を使う、ごく一般的な栽培方法を「慣行栽培」と言う。
それに対し、慣行栽培の半分の農薬使用量で栽培した作物を「特別栽培」と言うんだけど、大石農産では常に「特別栽培」基準の大根を提供するように努めているんだ。それを清流だいこん®と名付けています。
消毒薬と同じ考えとはいっても、やっぱり農薬の使用量が少ない方がいいからね。それは農薬を使わずに済む、つまり大根が健康に育っているということなんだ。

「特別栽培」は農薬が「慣行栽培」の半分と言われても想像しにくいと思うので、もっと具体的に説明しようか。
農薬には、種類により使用できるポイント(回数)が決まっていて、大根の場合は慣行栽培だと12ポイントまで使っていいことになっている。
大石農産ではそれを6ポイントに抑えているんだ。
どんな種類の農薬をどのくらい使ったのか、サイトの「栽培履歴」で公開しているので、ぜひ見て欲しい。

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栽培履歴、公開しているのは知っていましたが、今までどう見たらいいのかよくわかっていませんでした。ここを見るんですね。なるほど、確かに6ポイントです!
生育・栽培履歴

大石(将):
防除を担当していますが、基本は播種(種まき)と同時に殺虫剤で2ポイント、その後は1ポイントの殺虫剤を3回散布、1ポイントの殺菌剤を1回散布しています。合計6ポイントです。
播種後の防除は15日ごとを基本としますが、天気や気温の状況により前後します。
薬効が切れるギリギリのラインで防除するので、常に天候や畑の状態に気を配っています。

そこまでこだわっているのなら、いっそ「特別栽培」と謳った方が付加価値がつくのでは?

大石:
実は以前は「特別栽培」として出荷していたんだ。
ところがある年、特別暑い日が続いて害虫のヨトウムシが大量発生してしまった。
しかし特別栽培で使えるポイントはもう使い切っていたため、化学農薬が使えず、生物農薬しか散布できなかった。
生物農薬は化学農薬に比べて効きが弱く、駆除しきれず、結局虫に食われてしまった...ということがあった。

特別栽培にこだわるあまり、消費者に安定供給ができないのは本末転倒だ。
だから、いざとなったらもう1ポイント使えるように、特別栽培という「看板」は捨てたんだ。
でも特別栽培と同じ基準は維持しよう―――ということで今に至っている。

防除も含め、全てを「栽培履歴」として公開して、大石農産の「安全・安心」への取り組みを客観的に見てもらえるようにしているんだ。

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私は今まで「無農薬=善」「農薬=悪」というイメージだけで、スプレーヤーで農薬を散布している光景を見るたび「やっぱりこうやって農薬を浴びせないと売り物の野菜にはならないんだな」と密かに残念な気持ちになっていました。
そのくせ、ご近所さんからもらった無農薬の家庭菜園で採れたブロッコリーから、50匹ものアオムシが出てきて「こんなに虫がついているものを人にあげるなんて」と思ったりもしました。
ずいぶん身勝手なものだとあきれます。

そんな一貫性のない勝手な思いもあり、なんとなく「防除や農薬について農家さんに聞いてはいけない」と思い込んでいました。しかし大石さんは、疑問をしっかり受け止めて真正面から答えてくださいました。
それは防除について確固たる信念があるからではないでしょうか。

「特別栽培」という名にこだわらず、実を取った大石農産の決断と、それでも特別栽培と同レベルの防除をというこだわりを感じたインタビューでした。
農薬についてのルールを知ることができ、なにより栽培履歴を見るポイントがわかったのが収穫でした。

ありがとうございました!

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防除担当の将寛さんが描いた防除メモ。ホワイトボードにびっしり。